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それからしばらくして、外は寒くなって、部屋は温かくなった。
オレの足は完全に治って、もう棚から落ちたりもしない。
だから、オレが棚に乗るたびジッと此方をみるな…。
いい加減家の中にも飽きてきて、窓の前でジッと外を見ていたらタロウが近づいてきた。
「コタロウ、足が治ったから少し外に出てみるかい?」
カラカラと音を立てて開いた窓からビュゥっと冷たい風が入ってくる。
久しぶりの外の匂いに楽しくなって素早く外へ出た。
「コタロウ!」
振り返ると窓の傍でいつもと少し違う笑顔を浮かべたタロウがこちらを見ていた。
「あんまり、遠くに行ったら駄目だよ?」
オレは走り出した。庭の塀に登って、タロウの家から出ていく。
タロウには悪いけど、オレは自由に生きるよ。
だって足は治ったんだ。
ここにいる理由はない。
久しぶりに魚屋へ顔を出した。おじさんは少し驚いた顔をしてから「久しぶりだなぁ~元気だったか!」と笑って魚をくれた。
コンビニにも顔を出した。
けどナナコはいなかったからそのまま何時もの散歩コースを歩く。
治った足が嬉しくてスズメも追いかけた。
屋根に登って、昼間の太陽でポカポカする場所で昼寝。
それから近くの木で爪を磨いで………いつもやっていたことをこなしていたらあっというまに辺りは暗くなって凍えそうなほど寒くなってきた。
この時期は夜公園では寝られないから、ばあちゃんのところへ行く。
ばあちゃんの家の外でニャァニャァと鳴く。しばらくしてゆっくりとした動作でばあちゃんが顔を出した。
「タマ…久しぶりだねぇどこにいたんだい?」
ばあちゃんはオレをタマと呼ぶ。
今まで、まったく気にならなかったけれど…なんだかシックリこなくて変な気分だ…
開けられた窓からスルリと入ってオレ専用の寝床に潜り込む。
嗅ぎなれた自分の匂いに体を落ちつける。
う~ん…何か…しっくりこない…
寝かたを何度も何度も変えてみる。
タロウの家ではフカフカのクッションを使っていたせいか…
野良のくせに贅沢が染み込んでしまったみたいだ…
こんなんじゃいけない。
オレは一人で生きていくんだ。
そうすれば………
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