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「……泣き止んだ?」
「離さないで」
離しかけた手を握られた。
「離さないで。ここに、いて」
お願い。
掠れて聞き取れなかったが、そう言ったのは確かだ。
遠くで仲間がたき火を囲んで話しをしている。
本来ならそこに彼女も僕も参加しているはずだった。世界を救った女勇者とその仲間の優れた賢者は。
彼女が何故この世界を救ったのか。何故この世界を好きなのか。何故、泣いているのか。
元凶は、僕だ。
「みんなの所に戻らない気?」
返事をしないという事はそうなのだろう。
本来ならみんなの所に戻って、みんなの感謝の言葉を受け取りつつ、帰っていくのだが…。
「泣き虫勇者なんてみんなには見せられないからね」
「うるさぃ」
振るわれた腕は相変わらずバカ力で、魔法を利用しないと防げない。
思えば、彼女には何一つ勝てなかった気がする。腕力しかり、戦い方しかり、心根の強さしかり……。
今も、彼女は賢明な事に「帰りたくない」とは言わない。その一言がお互いの決意を容易く打ち砕くと知っているから。
僕は、その負けん気の強い所がずっと……──────……気に、なっていたんだ。
ずっと。
…ずぅっと。
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