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いきなり、手の内の感覚が薄くなった。
もう別れ、らしい。
思わず魔法で彼女を引き留めてしまったが、この手を離せば、彼女は消えて、しまう。
もう二度と会えない愛する人に送る別れの言葉なんて、知らない。
「……ねぇ」
彼女は笑って言った。
泣きながら、笑って、言った。
「また、会えるよね…」
「……うん…。うん、また会えるよ…」
もちろん、ウソだ。彼女がこの世界に来る事も、僕が彼女の世界に行く事も、できない。
「……また、会おうね」
「……また、会おう……」
離す前に一度、強く手を握り合って、僕は彼女を離した。
完全に消えるその一瞬に、彼女は僕の頬を拭って言った。
─あんたが泣くなんてね─
「だ、誰が……」
もう、彼女はいなかった。
「……泣いてないよ……」
─……泣いてよ。私のために─
「誰が……君の、ために、…なんか……──」
僕は、声をあげて泣いた。
ただ、泣いた。
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