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いきなり、身体の感覚が薄くなった。
彼が手を握ったら直ったけど。
もう別れ、なのかもしれない。きっとこの手が私をこの世界に留めているのだろう。
もう二度と会えない愛する人に見せる最後の顔ぐらい、笑顔で。
「……ねぇ」
私は笑って言った。
精一杯、笑顔で、言った。
「また、会えるよね…」
「……うん…。うん、また会えるよ…」
もちろん、ウソだ。もう会えないから泣いていて、もう会えないからウソを吐いた。
「……また、会おうね」
「……また、会おう……」
離す前に一度、強く手を握り合って、私は彼を離した。
完全に消えるその一瞬に、私は彼の涙を拭って言った。
「あなたが泣くなんてね」
あっけに取られた彼の顔を見た気がした。
気がつくと私は部屋に帰ってきていた。
もう、彼はいなかった。
─…泣いてないよ…─
「……泣いてよ。私のために」
聞こえない声にお願いして、祈る。
神様、明日には元に戻ります。だから…──
だから私たちを、今夜だけは、泣かせてください。
私は、声をあげて泣いた。
ただ、泣いた。
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