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何で? 何で引越しするの? やだよ、まだ舞ちゃんに会ってないし、お父さんに僕が飛んだのを見てもらってない。
もう来れなくなっちゃうよ……
やだよ……
「翼、友達と離れたく無いのは分かる。でもな、遠くまで飛べるチャンスなんだ。分かってくれ……」
遠くまで飛べる。
それはお父さんの夢で、僕の夢で……
それを言われたら何も言えなくなる。だってお父さんが飛べるんだもん。応援してあげなくちゃ。
「分かったよ……でも……でも今日だけは此処で舞ちゃんを待たせて……」
分かったと言って頷いて、僕をベンチに座らせてくれる。
それからは一言も話さなかった。じっとあの子の帰り道だけを見詰めて……
結局あの子が来る事は無かった。数日後、僕達家族は大きな空港の近くに引越した。近くって言っても二駅位はあるけど。
お父さんは突然忙しくあちこちを飛び回り出して、僕と遊んでくれる時間も減ってしまった。
ただ一緒に飛ぶ為の翼を作ったりはしてくれる。
でも全く飛べる気はしない。
小学校に入っても僕は飛ぶ練習を続けた。皆は馬鹿だ馬鹿だって言うけど……
でも僕はあの日本当に飛んだから……あの感触が忘れられなくって……
あの空と……あの風景と……
そしてあの子の笑顔が忘れられなくて……何度も坂を駆け降りた……
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