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空を初めて飛んだ日からもう十年。
長かったよ……この十年という月日は一人称を僕からオレに変えるのに十分な月日だった。
所詮そんなの他人からの影響。オレだって子供だったからすぐに人の真似をした。
でもただ一つ、オレと父さんの夢、飛ぶっていう不毛な努力だけはずっと変わら無かった。
ま、父さんは何故かお偉いさんに気に入られて色んな所に連れ回されてなかなか家にいることは無くなってしまった訳だが。
それでもたまに帰って来た時の最初の一言はただいまじゃなく、翼、飛べたか? だ。
そしてこの十年という期間はオレだけでなく、社会にも大きな変革をもたらした。
あのオレを飛ばしたホバリングバックパック。あれがいまや主な交通手段になってきている。
心配されていた環境への問題も、石油から電気にバッテリーを変えた事で少なくなった。これも普及の理由の一つだろう。
もうこの時代一家に一台になってきている。
種類も多彩で、従来の飛ぶだけに留まらず、ローラースケートを履いてあれを着ければ法定速度なんて簡単に破れる程のスピードが出る陸の乗り物にもなる。
そうなると黙っていないのが娯楽業界だ。当然エンターテイメント性に特化させた物まで作られる始末。
ホバリングバックパック、略してホバーでゴール地点に置かれたフラッグを取るという、ビーチフラッグの、舞台が街全体に広がったようなレースも催されている。
がしかしだ……
レース用の物になるとだな……一気に価格が跳ね上がる。
家にも一台、母さんの買い物用のホバーがあるけど……
ま、レースには使えないポンコツだ。
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