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「……ごめんなさいね、大変だったでしょう?」
「…いえ………あの、引き取るって……」
少年を女性に渡しながら、卓は少し躊躇いながら聞いた。
すると女性は苦笑いをし、視線を下げながら話した。
「…少し前に引き取りたいって人がいて、手続きはもう終わったんだけど本人には今日教えたから…。急に教えたものだから、大泣きしちゃって…」
「……そうですか…。他の子には…?」
卓の問いに、女性は小さく首を振った。
「ううん……明日お別れする時に言うつもりよ」
女性の返事にそうですか、とだけ返すと卓は少し視線を落とした。
「明日は笑ってお別れしてあげてね、おやすみなさい」
女性はそれだけ言うと少年を抱えたまま去っていった。
卓は暫くその場に立ち尽くしていたが、そのまま立っていても仕方がないと思い、寝る為に自分が使っている部屋へと向かった。
翌日、院にいる子供たちへ少年が院を離れる事を告げた。
案の定子供たちは大泣きをし、引き取り手の夫婦と職員は困ったように目を合わせていた。
なんとか職員と卓とで子供たちを説得すると、少年は目に大量の涙を溜めながら孤児院を去っていった。
職員と子供たちが中へと入っていった後、一人残っていた卓の前にあの猫が現れた。
「ナー」
卓は猫の前にしゃがむとそっと猫の頭を撫でた。
今度は逃げずに大人しく撫でられている。
「…これでいいんだよな?」
「ンニャー」
猫は答えるように鳴くと、またするりと手をすり抜け走り去ってしまった。
卓は暫く猫が去ったを見つめていたが、中から呼ぶ声がすると慌てて入っていった。
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