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卓が孤児院の中へ入っていくと、数人の子供たちが卓に駆け寄ってきた。
「すぐるお兄ちゃんおかえり!」
「すぐる兄、ゲームの続きしようぜ!」
「だめー!!僕と遊ぶの!」
元気のいい子供たちの頭を撫でていると、部屋の隅に一人でいる少年を見つけた。
普段は他の子供たちと一緒に元気に出迎えてくれるような子だ。
皆で遊ぶように卓が言うと、子供たちは不満そうな表情をするも元気に駆けていった。
卓はその様子を暫く見つめていた後、静かに部屋の隅にいる少年に歩み寄った。
「………どうしたの?」
少年は卓の言葉に反応はしたものの、折り曲げた膝に顔を埋めたまま何も返そうとしなかった。
卓はどうしたものかと考え、誰かに聞きに行こうとした時だった。
「……を、………の」
「………え?」
「……僕、ここを…離れちゃうの」
小さな声だったが、はっきりとそう言った。
卓は立ち上がりかけた腰を少年の横へ降ろし、静かに問い掛けた。
「……誰か、引き取りに来たの…?」
卓の問い掛けに少年は小さく頷く。
「明日には、ここ離れるって…」
少し顔を上げた少年の目許は今まで沢山泣いたのか真っ赤になっており、今も涙が溜まっていた。
「…誰かが引き取ってくれるのは、いい事だよ」
「………僕、みんなとさよならしたくない」
それからボロボロと涙を流す少年を、卓は優しく頭を撫でながらあやした。
泣き疲れて眠ってしまった少年を抱き抱えて部屋を出ると、職員の一人の女性が困惑した表情で立っていた。
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