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「やっぱり現代人は原点に戻らなあかんよ」
「はぁ?」
僕を含め、三人が呆れた顔をする。
「携帯でニュースなんか実際上辺だけやで。まぁ言うたら中身に触れてない深みのないトピックのようなものやし。やっぱり、新聞は深味が断然違うで」
「いや、じゃなくて今読まんでいいやろ」
石井がめんどくさげに言う。
「じゃあ何をすればいいんよ。めっちゃこの車おもんないもん。じゃあCD聞いてええの?」
「CDプレイヤー?それもだいぶ古いね。今はipodの時代やからな」
高井が当たり障りない返しをする。
「やっぱり原点やからね。ipodなんかより断然使い勝手ええよ?だって買ったCDその場で聞けんねんで?ipod聞かれへんやん。情けない」
機械に情けないなんて言うなよ、って言いたいが言わないことにした。和久井は高井よりも石井よりもよりめんどくさいからだ。
石井は和久井を相手にせず、横に置いたバッグを弄っている。高井も運転に集中し、黙ったままだ。僕はそんな彼らを見かねて、やれやれと思いながら和久井の話相手をした。
眼鏡越しの澄んだ瞳が真っ直ぐ僕をとらえる。『原点回帰』がモットーな彼女は何もかも古臭い。昭和の匂いがする。
何がきっかけかわからないが初めはコンタクトだったのに、『原点回帰』とか言い眼鏡にした。新入生の時から知ってるが以前はイケイケな大学生だったのに……。
今じゃこんな風貌だが、『原点』は実は目がくりくりして可愛い。その『原点』に回帰する日を今か今かと待ち望んでいる。
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