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「そういえば……」 そう言いながら、石井は後部座席を振り返る。手にはipodが握られていた。 「最近衝撃的なニュースとかあった?俺はいつもも和久井の情報だけを頼りにしてるからな」 誇らしげに言うものの、自分自身を貶めているだけに過ぎなく呆れる。彼に嘘を教えても、なんでも信じ込むだろう。 「最近は……」 和久井はペラペラと新聞を捲りながら、ある一面を石井の前に突き出した。僕の方からは裏面しか見えない。 「これやな。昨日ぐらいから話題やねん。人気絶頂の歌手が失踪したってね」 「瀬戸口明日香……」 ボソッと石井が呟いた名前は、聞いたことがあるが顔はいまいち覚えていない。テレビはあまり見ない性分なのだ。でも、確か赤いハットがトレードマークだったような……。 「えっ!瀬戸口明日香?めっちゃビッグニュースやん!昨日からって……どこ消えたんやろ」 高井が今にも運転席から飛び上がりそうな甲高い声を上げた。どうやら彼女は瀬戸口明日香に詳しいようだ。 「そんなビッグなんか?」 石井が疑い深い目を和久井に向けるが、和久井も首を捻るだけだった。情報源のくせに詳しく知らないようだ。 「石井読んで」 僕がニュースの全容を知りたいがために、読むように促すが、彼はめんどくさげに否定し、高井に視線を移した。 「こんなナビなんか付けてる場合ちゃうで。ちょっとニュースに変えるわ」 「ちょっと!もう」 そう言うと、高井の許可なしにテレビの電源を付けた。雑音で途切れながらもちょうどニュースキャスターが、瀬戸口明日香に関するニュースを伝えていた。
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