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その声の主は竹下昇と後に判明して、この日の夜の事を、彼が戦死するまでからかう事となる。
泣き声は次第に消え、男と女の声へと変化する。
「まったく…どうやって連れ込んだんでしょうねぇ…」
軍隊貸し切りの旅館にもかかわらず、よくやったものだ。
「まぁ、しょうがないです。」
私は、言葉が見つからなかった。
翌日、竹下君の回りに人だかりが出来ていた。
皆、初対面にもかかわらず、囃し立てていたのには、私も笑わずにはいられなかった。
「貴様!いい思いをしたなぁ…」
「まったくだ。俺も連れ込んどけばよかったよ…」
回りの召集兵達が笑っているのに堪えられず、竹下君は私のもとへ逃げ込んだ。
「くっそ~!あいつらめ!」
赤面しながら走ってくる姿は愛嬌があり、竹下君の性格がよくわかった。
「改めまして、竹下です。竹下昇と言います。広島の呉に嫁と住んでいます。まぁ…嫁と言っても、召集されてから結婚したので、初夜を迎えて二日でここに来ましたが…」
「それでも羨ましいですよ。それに、生きて還ればいいだけの事ですよ。」
励ましの言葉をかけてからというもの、彼は私にぞっこんだった。
その日から始まった訓練や、食事に至る、ほとんどが竹下君、前田君と私の三人で行っていた。
両名とも、明るく、二人の掛け合いを見ると、まるで漫才だった。
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