青春を棄てさせた『一枚の紙』

5/5
60人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
いつものように仕事から帰り 母親と晩飯の用意をしていた。   兄は海軍の下士官となり 厚木基地で通信兵をしていて   弟は医者のために 陸軍の衛生兵として南方戦線に 参加している。   父親は5年前に結核で他界した。   家には母親と妹と私だけだった。     ドンドンドン   「藤波さん!いらっしゃいますか?」   「俺が出るよ。」   赤紙だろうと思った。 玄関の戸をあけると、肩に婦人会のたすきを掛けた女性4人と 郵便配達人が一人たっていた。   「藤波寛貴君!!万歳!万歳!」   「おめでとう!立派な兵隊さんになってくださいね!!」 「武運長久をお祈りいたします」   などと婦人会の人たちが私に言った。   その声を聴き、母親が駆け付けた。   「来ましたか…」 母は落ち込んでいた。   「ありがとうございます。立派な軍人となり、しっかりと務めを果たして参ります。」 そう言って戸を閉めた。   台所から妹の泣き声が聞こえたから、台所には行かなかった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!