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世界には、魔術とか魔術師とか、そんなものが溢れていた。
でもそれは、なりたいからと言ってなれるものではなく、生まれもっての才能によるという。
つまりは、生まれつき「魔術」の才能に恵まれていなければ、人生において、「魔術師」とは無縁になる。
逆を言えば、生まれつき「魔術」の才能を持ってしまった者は、選択の余地なく、「魔術師」となるのではないか。
「………」
ぱたんと本を閉じ、先日10歳の誕生日を迎えたばかりの少年は、ため息をついた。
「…なにが、才能だ」
例えあったとしても、磨かなければ意味がない。
才能を持った者が、それを開花させようと思わなければ、意味がない。
才能という、恵まれた力。
それを持たぬ者は、嫉妬するだろうか。
嘆くだろうか。
しかし、彼は思う。
才能は、運命の分かれ道を消し去るものだと。
才能を持ってしまったため、運命のレールは選択肢をなくし、ただの一本道となるのではないか。
決められた道を、ただ歩き続ける。
自分の意志ではなく、最初から敷かれた、終わりのない道を。
「僕は…いやだ」
少年は声にだしてつぶやいた。
…彼には、「才能」があった。
いや、あるのかどうかは、自分にはわからない。
だが、周囲は自分に「才能」があると口々に言う。
魔術の才能。
それは家系のせいでもあったが、少年はそのなかでもずば抜けているらしい。
5歳になったとき、大人の魔術師と無理やり戦闘訓練をさせられた。
そう、魔術なんて戦いのほかに使えない能力だ。
もしそれで生き残ることができたなら、 少年の才能は本物だと言われた。
こうして今生きているのだから、才能がある、ということが確証されたわけだが。
「知るか。そんなの」
誰に言うでもなく、少年は憎々しげに、舌を鳴らした。
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