ルカ

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こんこん、と部屋の扉がノックされた。 「ルキア様」 執事の声がする。 「お父上がお呼びです」 「………」 少年は、それに答えない。 嫌いだった。 すべてが。 父も。 自分を呼ぶときの、その「単語」も。 ルキアは少年の名前だ。 だから、少年を呼ぶときは、誰もがそれで呼ぶ。 当たり前のように、みながそれを口にする。 しかし、少年はその「単語」が嫌いだった。 …父がつけた名前だったから。 母は、自分が生まれた直後に他界したらしい。 だから少年は母の顔も、ぬくもりも覚えていなかった。 母は好きだ。 なにも知らないぶん、嫌いになる要素がないから。 ただ、一つだけ恨んだ。 どうして、名前をつけたのが母ではなかったのだろう。 母はなぜ、自分になにも与えてくれなかったのだろう。 「………」 今は亡き母への不満は、父への憎悪によってかき消される。 それほどまでに、少年は父が嫌いだった。 その父が、呼んでいるという。 「…今日はなんだろうな」 読み終わった本を、棚に戻した。 休み時間は短い。 しかし本を読む以外に浮かばなかった。 (次はなにを読もうかな) 1日のうちの、ほんのわずかな自由時間。 次に読みたい本を考えながら、少年は重たい部屋の扉を開けた。
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