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他人の好みや趣味を、とやかく言うつもりはないが、これは偏見にも似たこだわりだな。
土井の質問攻撃は続く。
「何で、そんなに年下の男を嫌うかな。前に嫌なことでもあったの?」
「中2の時、後輩の男の子に告白されて付き合ったんです。でも付き合い出してから、威張り散らすし嫉妬も激しくて……」
「いるいる、そんな奴。特に仲間の前で、格好つけたがんだよな」
「そうなんですよぉ。それで嫌になって……」
すっかり、意気投合してやがる。
この時、彼女が名乗った。
白川 縁。
「しらかわ えにし。珍しい名前だね」
「人との縁に、恵まれるようにって。母さんがつけたんだって聞きました」
「素敵な名前じゃないか」
「その母さんは入院してて神戸の何とかって、有名な病院に2年も入ったきり。親父はあっちに仕事移して、仕事と病院で忙しくくて私が学校をクビになったのも気にしてないみたい」
今度は、寂しげな表情を見せる。
彼女の年上好きは、親に甘えたい。そんな気持ちからも、来ているのかもしれない。
店内が静かになってしまった時、店の電話の電子音が静寂を切り裂いた。
「土井、電話」
「はい、今出ますよぉ」
おどけた土井は、踊るようにカウンターの隅へ行き電話の子機を持ち上げた。
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