疲れた青年と路上の少女

6/35
前へ
/35ページ
次へ
 歌が終わると、彼女は俺に気付いてニッコリと笑う。  笑顔が似合う子だ、と思った。 「聴いてくれて、ありがとう」  歌っているときと変わらぬ声で、彼女は話し掛けてきた。 「お兄さん、なんて名前ですか? あ、あたしはアカリって言います! 年は十九歳、フリーター、夢はシンガーソングライター!」  ――知りもしない男に、ぺらぺらとよく話す子だなあ。  ボーっとそんな事を考えていると、彼女……アカリが急かしてくる。 「……で、お兄さんは?」 「え……? あ、あぁ。大塚俊司、二十五歳。広告代理店勤務……だった」  また、嫌なことを思い出してしまった。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

68人が本棚に入れています
本棚に追加