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シィンとしても彼のことは好いていたのだが、如何せん、うっかりの度合いが規格外すぎて頭を抱えること…数え切れない。
あのうかつ者、と胸の内で毒づきながら、眼前の事態収集を図る。
ふと見ると、神殿騎士らが、いつの間にかルークを促して自分の背後に避難していた。
務めを果たしているのは結構だが、1人ぐらい自分の援護に回ってくれてもいいのに、とちょっぴり寂しさを味わう。
さておき、早く事を収めねば、サリはその誕生時に王都を水に沈めかけた娘だ。
なんとか彼女の感情を鎮める言葉を探すが、出てこない。
出ない言葉を探すよりはと、風で水気を散らす。
こんなことで剣は抜くまい、絶対に。
悲愴な覚悟を決めたとき、救いの声が響いた。
穏やかなファラの声である。
「サリ、シィン様は貴女も、イズラ様もお責めになる気はないと思うわ」
意外な言葉にサリは一時泣くのを止める。
重みを増していた周囲の空気もそれに合わせて動きを止めた。
「でも、話してはいけないことを話してしまって…」
言うのに、ファラはにこりと微笑んで言った。
「イズラ様は王城に上がられてまだ日が浅いんですもの、失敗はつきものですわ。それより、今後もっと重大なことを洩らさないように、今、教えて差し上げなくては。これは良い機会なのですわ。そうではありません?」
話を振られ、サリの願いに満ちた視線を受けつつ、シィンはファラに感謝する。
「ああ、その話は政王ご成婚派の単なる願望だからな。大多数は候補を決めるだけならということで話に加わっているに過ぎない」
「でしたらどなたのお名前も出たところで噂話にもなりませんわね?」
水分でじっとりと重くなりかけた騎士服を感じながら、一も二もなく頷く。
「サリ殿には感謝こそすれ、責める気はない。イズラ殿にも、ご理解は求めるが、責を問うたりはしない」
言うとサリはようやく涙を払い、ファラに差し出された葉布(はぬの)で顔を拭いた。
「早まってしまってごめんなさい」
恥ずかしそうに呟くのに、ようやくほっと息をつく。
それにしても、神殿騎士らはともかく、仲間の彩石騎士らの態度はどうだろうか。
目を合わそうとしない3人を睨んでおいて、早々に奥の院へと向かうことにする。
だが、何か忘れているような?
首を傾げてシィンが記憶を探っていると、アークたちは戻ることにしたらしい。
「じゃあまた今夜!」
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