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王都の夜
―Ⅰ―
彩石騎士は基本的に警邏はしない。
騎士の中に警邏担当の者がいて、3交替で王の居室を守っている。
彩石騎士は、政王または祭王とともに行動するためにいるのだ。
そのため、その行動時間は双王に倣うのが常だが…今、シィンは南門の通りにある酒場のひとつにいた。
双王は他の3人の彩石騎士とともに、奥の院でそろそろ休みをとる頃だろう。
昼間のやり取りから若干不安は抱えているのだが、宰相から内密にと依頼された件を何とかしなければならない。
多少、苛ついている自分を意識しながら、シィンは酒の入った杯をごとりと机に置いた。
巷の噂はある程度手に入った。
問題は、当人をどう探すか…。
時間もそう無い。
最初から無理を感じていたが、ユラ-カグナを見捨てきれず、ここにいるのだ…。
深い溜め息をつき、シィンは酒を残したまま勘定を済ませ、店を出る。
噂によれば、探し人が現れるのは紅月の明るい夜。
紅月には満ち欠けがあり、7日周期で形を変える。
すなわち、暁(ぎょう)、朔(さく)、繊(せん)、朏(ひ)、半(はん)、藁(こう)、円(えん)。
このうち明るいと言えるのは半の半月、藁の藁月、円の円月だ。
今夜はそのひとつ、半月ではあるのだが…。
合う条件は、あいにくそれひとつ。
他は情報らしい情報もない。
しかも、目当ての人物が現れるとしたら今夜か明日、それ以降は他国に逃げている可能性が高くなる。
行き詰まって、は、と深い息を吐きがてら周囲を見回すと、何やら細い路地にふらふらと入っていく人影がある。
おそらく酔っ払いだ。
放っておくこともできず、シィンは大通りを横切って彼の後を追った。
街にも夜間警邏の者たちがいるので、時間がかかるようなら彼らに任せればよい。
そう思って追い付いた彼の肩に手を置くと、問答無用で蹴りが放たれた。
危うく回避するが、続けざまに左腕が殴りかかってくる。
咄嗟に地面に手をつき、腕を受け流すと相手の懐に入って急所を軽く打った。
呻き声をあげて腰を落とすのを注意深く眺めながら、シィンは相手の身なりを観察した。
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