王都の夜

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さして上等とは言えないが、しっかりした生地で清潔感もある。 体躯は少年のそれだが、よく鍛えてあるように見える。 右手首の光の反射から、そこにある金具へ目をやると、王都の街路警邏が持つ腕時計がはめられている。 「大丈夫か?」 と声を掛けると、すぐに状況を把握したらしい。 腹の辺りをさすりながら、頭巾を目深にかぶって髪色の見えないシィンを見上げた。 「すまない、面倒をかけたな?」 素直な言葉と酔った状態での状況把握ぶりに、シィンはわずかに目を見張り、まじまじと相手を眺めた。 「いや、大丈夫だ。それより歩けないなら警邏の者を呼ぶぞ」 そう言うと、それは恥ずかしいなと自嘲気味に笑う。 やはり街路警邏の者なのだろう。 「言っている場合なのか?」 言いながら自分の腕時計を見る。 まだそれほど遅い時間ではない。 「家が近いなら送るぞ」 黒檀塔の大部分は騎士たちの住まいとなっている。 大抵の若い騎士たちはそちらに住むものだが、少年の行く先はどうもそちらではない。 意外な申し出に少年は目を丸くしてまじまじとシィンを眺めた。 髪色は隠れているが、少年は眉をひそめて、 「なんか見覚えある顔デスネ…」 と自信なさげに呟いた。 白剱騎士だと悟られても面倒なので、顔が見えないよう、シィンはさっさと少年の腕をとって立たせ、肩を貸す。 「で、どっちだ?」 「そこの角の2階です…」 なんとなく敬語になる彼には何も言わず、シィンは言われた通りの家に少年を入れた。 年の頃はアルペジオらと変わらないのだろう。 入ってすぐの1人掛けの椅子に座らせる。 内部はひと部屋の角に小さな炊事場があるだけ。 その炊事場に寄り、上水道から木の器に水を入れる。 差し出された器を受け取って礼を言い、少年はシィンを見上げた。 「えーと、名前を聞いても?」 シィンは少し考える。 ユラ-カグナの依頼は内密に…。 だが、正直彼は騎士であって人捜しの達人ではない。 頭巾をばさりと取り払うと、少年は一瞬の戸惑いのあと、シィンが何者であるか察したらしい。 慌てて椅子から立ち上がろうとするのを押し(とど)め、シィンは確かめる。
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