王都の夜

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反射的に言うと、ヴィーレンツァリオ卿はその深く紅い瞳で奥底を覗くようにカィンを見た。 「要らない、とは?」 「だって俺の失態黙って貰うお返しですし、て言うか俺、ヴィーレンツァリオ卿に対して殴る蹴るを…」 まあ当たりませんでしたが、と段々声を小さくする。 ヴィーレンツァリオ卿はしばらく黙ってカィンを見ていたが、やがて小さな息を吐いて新たな問いを発した。 「君はいくつだ?」 「16歳です」 「そうか…シィンと呼べ。俺も君をカィンと呼んでいいか」 耳慣れない名に一瞬戸惑ったが、ルゥシィンの略だと気付く。 「えっ、それはいいですけど…」 自分が呼ぶのは抵抗がある、とまで伝えることはできなかった。 ヴィーレンツァリオ卿…シィンは、そこまで聞くと扉を開け、それではまた明日、と言い置いて帰っていった。 昨夜のことを思い返して、カィンは水の入った器を、あおる。 窓の外は気持ちのよい晴天で、カィンは誘われるように出掛ける支度をし、部屋を出た。 夜までに出来ることが、いくつかあった。
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