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「昼間も特に禁じてはいないが、単に夜間は挨拶するよう徹底させているだけだ。いつから始まったか知らないが、表神殿はそのように決まっている。見られていることを意識させて、悪事を働かせないためだ」
「完全に閉めれば悪事もできませんよね?」
「それでは表神殿がある意味がないからな。何かあったとき、いつでも国民が無条件で逃げ込める。それがこの場だ」
カィンはぽかんと口を開け、言われた意味を呑み込んでいく。
5年以上はアルシュファイドに住んでいるが、初めて知った。
神殿が出入り自由なのは周知のことだが、そんな思惑があったとは。
「それって常識なんですかね?」
「ここが常時開いている理由か?取り仕切る者が知っていれば事足りる」
だが、無条件で受け入れられるというこの事実…それを国がやっている。
なんだか、心強く感じるのは自分だけだろうか。
いや、国民ならばきっと知っていたいのではなかろうか。
そんな風に大事にされているのだ、と…。
もっともこの国では逃げ込むようなことも起こらないけれど。
そこまで思ってふと気付いた。
「もしかして、ここの衛士は、逃げ込んできた人を助けるために居るんですか…神殿を守るためでなく?」
「神殿は祭王陛下と四の宮公が守っているからな。彼ら衛士は人を守っている」
思った以上に大きな力を、肌で感じて、カィンは息を詰めた。
中央の尖塔に着くと、シィンは扉の前にいる衛士に身分を明かして、屋上へと上がることを了承させた。
黙って上がることもできたろうが、最悪朝までここにいなければならないかもしれない。
余計な不審を抱かせないためだろう。
尖塔内部の奥まで行くと、屋上へと上がる階段があった。
階段は、尖塔の壁と壁の間に据え付けられていて、上がりきったのは頂点付近。
外に出ると、肩幅より広いぐらいの通路があって、カィンの胸の辺りまでの外壁が囲っていた。
これだと下からは見えないだろう。
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