王都の夜

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遠くを見ると、王都全体が見渡せる。 東の山の中腹にある主神殿の明かりと思われる光まで見えた。 王都の明かりはぼんやりと温かい。 少し前に黒檀塔から見た景色と同じだ。 「この景色を守っているんですね…」 「君らもだ」 シィンは律儀にこちらの小さな呟きに返す。 「と言うより…この国を守っているのは、今のこの国に守る価値を見出(みい)だしている者、皆だろう…」 ふとシィンを見返ると、こちらを見た。 「ここが平和なら守られるものは多い…少なくとも俺はそうだ」 「俺は…ひとりです。守るものがありません」 「らしいな、身上書に身寄りはなかった」 そう言ってシィンは尖塔に身を預け、目を閉じた。 ふ、と空気が立ち止まったのが判る。 1拍置いて、カィンは愕然とした。 王都全域の屋外を…サイゴクを使わずに探っているのだ! 軽いめまいを覚えて外壁に身を預けた。 なるほど、これは律法部要らずだ…きっと彼らが知ったら職場放棄したくなるに違いない。 これは昼間探ったことは無駄だったかな、と溜め息を漏らしていると、声がかかった。 「君のサイジャクを見せてくれないか」 もう終わったのかな、と振り返ると、探索の(あみ)は消していない。 器用と言うか有能すぎる。 「サイジャクなんて持ってませんよ、必要ありませんから」 逆に彼は必要だろう。 どれだけ今、有能だろうと、これだけの風の力を有しているのだ、害として、例えば人声などが防ぎようもなく届いたりする。 自分ですら幼い頃、サイジャクを必要とした。 「…では、サイセキを見せてくれ」 「サイセキ?」 そんなものは持っていない、と言おうとしてふと引っ掛かるものがあった。 幼い頃から持っている石がある。 小さいが、あれは確かにサイセキではあるはずだ。 首もとから取り出して、外した。 渡そうとすると、シィンは一目見て、いい、と言った。 「今はまずい」 カィンは親指の先ぐらいしかない小さな黒碧石を目前に掲げて、無意識に首を傾げた。 あまり感知能力は鋭くないが、自分にはたいした力は感じられないのだ。 だがまあ、今はいいと言うのだからと、元のように首にかける。 「それはいつから持っている?」 「子供の頃から。祖母に貰ったんですよ」 見事な黒髪の美しい祖母だったと子供心に覚えている。 そして印象的な黒瑙の瞳。 「…明日…いや、明後日の暁の日、土の宮に来てくれ。職場には俺から話を通しておく」
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