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とはいえ、そもそもそんなに恐ろしい人物ではない。
ただ外見はちょっと特殊かもしれないが…。
土の宮公を思い出していると、了解しました、行きます、との返事。
「ところでいいんですか?」
不意にカィンがそう言った。
何のことかと聞く前に、言葉が続く。
「いくらあなたの力が底無しだって、まだ0時まで2時間以上ありますよ」
それまで探査していて身体がもつのかわからないため、心配したのだ。
だが、シィンは心配要らない、と即座に返す。
「いくらなんでも底無しではないが、このくらいなら負担にならない」
その言葉自体がすでに底無し発言なんだが、とカィンは思う。
「ところで君はここから無事に飛び降りられるか?」
尖塔はおよそ4階建ての建物並みの高さがある。
だが、傾斜もあるし、風の力で補助すれば、カィンにとってさほど無理はない。
「はい、行けますよ」
下を覗き込みながら言うと、シィンは自分の顎に片手を当てて、考え深げに、そうか、と呟いた。
「なら、ここから北門を抜けて、東通りを真っ直ぐ走れ。犯人はすぐわかる」
「え、特徴は!?」
「嫌味なほどのいい男だ」
…いやいや、髪の色とか、あるでしょ!
突っ込みが心の中でしか間に合わなかったのは、いい男が、他者に対して、嫌味なくらいいい男、などと言うからだ。
激しく違和感。
「そろそろ行くぞ」
その言葉にまた、えっ、と声をあげ、北側の街並みを見下ろす。
ちらほらと酔客らしき者たちが見える。
この中で捕り物を?
カィンの視線に、シィンもその心配を感じて、東通りの方へ目をやった。
「あの程度なら俺が守れる。君は気にせず走ってくれ。あぁ、あと…」
髪と目は暗い茶色だ、と言う。
つまり高い確率で土の者だ。
「では行くぞ」
まだ0時には遠いが、見付かったなら早く動かなければ。
シィンが身軽く高い外壁を飛び越え、風の宮の向こうに消える。
これはうかうかしていられない。
カィンも、急いで外壁を飛び越え、東通りへと降り立つ。
ざっとみたところ、目当ての人物とやらは見当たらないが、シィンもいないのだからまだまだ遠いのだろう。
余力をぼんやり計算しつつ、カィンは東通りを駆け抜けていった。
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