王都の夜

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       ―Ⅳ―    ざ、と地を削ってその人物の前に降り立ったシィンは、ゆっくり身を起こして彼と向かい合い、口を開いた。 「久しぶりだな、ジエナ・ルスカ」 呼ばれて相手は顔を輝かせた。 「やあ、シィン!これから一杯やるところだ。一緒に来ないか」 にこにこ笑って旧友に話しかけるのへ、シィンは溜め息を吐いた。 昔からこの男は苦手だ。 「そんな用でお前を探すか。ユラ-カグナから奪ったものを返せ」 するとジエナはからからと笑って腹を押さえた。 「笑えるよな、あいつがあんなの使ってるなんて…似合わないからやめろと言っとけよ」 まあその意見には概ね賛成なのだが、あっさり同調するような仲ではなかった。 「言いたければ自分で言え。と言うか会いたければ余計なちょっかい出さずにまともに国使として顔を出せ」 するとジエナは歪んだ笑みを見せてシィンを見た。 「それだと相手してくれないだろ」 言いたいことは解る…。 しかしこんなことをされたらはっきり言って迷惑なのだ。 「そこは自分で何とかしろ。奴と対等に話せる地位ぐらい選び放題だろうが、間抜けめ…」 溜め息混じりで言うのへ、ジエナは目を()いて叫んだ。 「そんな都合のいい立場がどこにあるんだ!」 本気の叫びに、勘弁してくれ、とシィンは頭痛を抱える。 教えるのは別に構わないのだが、言うと一直線で押し進み、仮に不都合が生じても方向転換できない不器用さなのだ。 「だからそれを吟味しろと言ってる」 はっきり言って頭は回るはずなのだ。 シィンが考えるより都合のよい立場を自分で用意できる力は充分ある。 惜しむらくは…この猪突猛進の混乱気質だ。 ユラ-カグナのこととなると支離滅裂なことしかしでかさない。 何をどうすればこうなるのだか。 ともに学究都市クラールで学んだ頃はこうではなかった…。 「例えば…クラールの学者としてこの国の所有する資料を請求するとかな…」 たまらず呟いてしまって直後に後悔した。 「本当か!学士号ならいくらでもあるぞ!」 「だからそれを吟味しろと…ただ資料請求したのでは資料だけのやり取りになるだろう、ユラ-カグナには会えないぞ」 「ならどうすればいいんだっ」 しゃがみこんで頭を抱えたくなる…。 「あのぅ…お知り合いで?」
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