王都の夜

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       ―Ⅴ―    飲み屋は、手前に酒台(さかだい)と机、奥に個室のある、大きさに少し余裕のある店だった。 カィンは奥の個室を使うよう勧め、一通り注文して飲み物が来ると、隣に座ったシィンに言った。 「良ければ髪色変えましょうか?水が使えるので」 この国でシィンの髪色の意味が判らぬものは少ない。 頼む、と言われるのを待ち、カィンは手短に術をかけた。 綿密に髪の1本1本に術をかけることもできるのだが、今回は簡易的にシィンの頭部全体にまとめて術をかけたので、光の加減によっては白銀が見えたりする瞬間が出てくる。 だがその程度なら、飲み屋の酔客や忙しい店員は改めて確かめたりはしない。 外套を脱いで落ち着くと、呑気な様子でジエナが乾杯!などと始める。 「まったく、いい気なものだな…」 いいながらシィンが酒をぐいっとあおるのを、カィンは落ちつかなげに眺めた。 飲むと暴れる性質だったらどうしよう。 そんなカィンにジエナが話を()く。 「で、どうしたらあの堅物に近付けるって?」 あの堅物、とはまあユラ-カグナ・ローウェンのことだろう。 偉そうに提案できるとは言ったが、受け入れてもらえるか、また本当に適切な案なのかは正直わからない。 「えっと…単純にあの人に会おうとするなら、頻繁に本人の許可の必要な事柄を持ってけばいいわけです。例えば、禁書庫の出入り」 それを聞いたシィンが眉をひそめ、やや固い声を出す。 「…なぜそんなことを知っている?」 確かに禁書庫の管理はユラ-カグナも行っている。 だが、一般の騎士が禁書庫など、まず存在を知るわけがないのだが。 「士官学校時代、仲良くしてた教授がいて、一緒に入ったことが何度かあるんです。そのときは、謁見の順番待ちもせず、好きなときに鍵を借りに行けましたし、そのうち教授と彼が仲良くなって、空き時間が重なるとお茶もご馳走してもらいました」 「羨ましい…」 と言うよりは恨めしげに見詰められて、カィンは杯でジエナの視線を遮った。 「問題は禁書庫に何度も足を運ぶほどの何があるかなんですが、それはシィン様に見てもらえれば判るかと」 「様は要らない」 さらりと言って、シィンは自分の顎に指をかけた。
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