王都の夜

14/16
前へ
/170ページ
次へ
「クラールになくて禁書庫にあるものと言ったら創世の書だな。しかしあれは研究され尽くしているし…」 「教授は地図を見に行ってました。いろんな種類の分布図があって、その話をしていたら、他の話もするようになったんです」 「じゃあそれにしよう」 あっさりジエナが言うと、シィンが渋面を作る。 「なんの分布図にするんだ。すぐ終わるような研究では3日ともたないぞ」 「それからもうひとつ、シィンは毎日彼と会っているのでは?」 「ああ…それが?」 「この国は来るもの拒まずです。それなりの地位に就けば国事の相談で顔を会わせられます」 この案はいただけなかったのか、2人して黙り込んでしまった。 不意の沈黙が居心地悪い。 木の器の冷茶をあおる。 あらかじめ酒は固辞したのだ。 暫しの沈黙のあと、シィンが突然思い出したように口を開いた。 「…ああ、そういえばこいつの名はジエナだ。カザフィス出身」 よろしく、と愛想のよいジエナに握手を求められ、応える。 「カィンです、よろしく」 「シィンとは騎士繋がりで会ったのか?」 「いえ、少々外聞のよくない話で」 「それほどでもないがな」 「なんだ、恥ずかしがらずに吐いてみなさい、私は神官だ」 「嘘を()くな嘘を」 気が合ってるなと思っていると、シィンがこちらを見た。 「カィン、明日は何か用事はあるか」 「いえ、何も」 休みはあっても鍛練以外に予定のない独身騎士だ。 何か頼み事か、と思っていると案の定、空いた時間でいいのだが、と前置きされる。 「禁書庫で使えそうなものを探してきて貰えないか。俺では見に行く時間がない」 「でも俺ではどれが使えるかわかりませんよ」 「候補を探すのでは?」 絞らずにとりあえず何があるかだけでも確認できれば、いい。 だがそれなら蔵書目録があるはずだ。 やはり自分が探すのは適さない。 そう言おうとすると。 「オレが付いていくのではどうだ?」 と、ジエナが口を挟んだ。 シィンが再び顎に手をやり、考える。 「お前は当面禁書庫には入れないがな…」
/170ページ

最初のコメントを投稿しよう!

89人が本棚に入れています
本棚に追加