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「クラールになくて禁書庫にあるものと言ったら創世の書だな。しかしあれは研究され尽くしているし…」
「教授は地図を見に行ってました。いろんな種類の分布図があって、その話をしていたら、他の話もするようになったんです」
「じゃあそれにしよう」
あっさりジエナが言うと、シィンが渋面を作る。
「なんの分布図にするんだ。すぐ終わるような研究では3日ともたないぞ」
「それからもうひとつ、シィンは毎日彼と会っているのでは?」
「ああ…それが?」
「この国は来るもの拒まずです。それなりの地位に就けば国事の相談で顔を会わせられます」
この案はいただけなかったのか、2人して黙り込んでしまった。
不意の沈黙が居心地悪い。
木の器の冷茶をあおる。
あらかじめ酒は固辞したのだ。
暫しの沈黙のあと、シィンが突然思い出したように口を開いた。
「…ああ、そういえばこいつの名はジエナだ。カザフィス出身」
よろしく、と愛想のよいジエナに握手を求められ、応える。
「カィンです、よろしく」
「シィンとは騎士繋がりで会ったのか?」
「いえ、少々外聞のよくない話で」
「それほどでもないがな」
「なんだ、恥ずかしがらずに吐いてみなさい、私は神官だ」
「嘘を吐くな嘘を」
気が合ってるなと思っていると、シィンがこちらを見た。
「カィン、明日は何か用事はあるか」
「いえ、何も」
休みはあっても鍛練以外に予定のない独身騎士だ。
何か頼み事か、と思っていると案の定、空いた時間でいいのだが、と前置きされる。
「禁書庫で使えそうなものを探してきて貰えないか。俺では見に行く時間がない」
「でも俺ではどれが使えるかわかりませんよ」
「候補を探すのでは?」
絞らずにとりあえず何があるかだけでも確認できれば、いい。
だがそれなら蔵書目録があるはずだ。
やはり自分が探すのは適さない。
そう言おうとすると。
「オレが付いていくのではどうだ?」
と、ジエナが口を挟んだ。
シィンが再び顎に手をやり、考える。
「お前は当面禁書庫には入れないがな…」
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