王都の夜

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今のジエナの立場で禁書庫に入ることはできない。 国内の要職にない者は、閲覧したい禁書を指定し、司書に閲覧室まで持ってこさせる決まりだ。 国の学生や一般騎士は、教授や上司と共にあるか、彼らの委任状を持っていれば立ち入り可能だ。 例外として、クラールの学者は、数週の査定の後、基準を満たせば、禁書庫に立ち入ることを許される。 目録だけなら閲覧室で閲覧できるが、やはり中身を確認しなければならないだろう。 「そうだな、2人で手分けすれば早いだろう、指示はジエナが出せばいい」 そう言って、カィンを見た。 「明日、やってくれるか?」 どれくらい時間を要するか判らないが、と言われたが、自分の提案に乗る結果である、途中で放り出せない。 「わかりました。どうすればいいですか?」 「いつ来れる?」 「9時には行けます」 「では王城の受付に来てくれ。ジエナとはそのあと合流する」 そういえば、とカィンは確認する。 「一応…ジエナ様のご身分を聞いても構いませんか?」 「オレも様は要らない。素性は明日(あした)教えるさ。とりあえずクラールの学者だと認識してもらえれば助かる」 なるほど、カザフィスのお偉い(かた)なのだなと了解する。 暁の日には土の宮公に会うし、自分の未来が薄ら恐ろしい。 「それで、何か知りませんが返してもらえたんですか?」 カィンが思い出して問うと、シィンが横目でジエナを睨んだ。 「当然返してくれるんだろうな」 「えっ、何のことかな…」 目が泳いでいる。 これはまずそうだ、とカィンが思うが早いか。 「まさか処分したのか」 「だって似合わないし」 「本人の自由だろう…どうするんだ、意外に貴重品らしいぞ」 「あー、わかる、意外に手間かかるんだよ、あれ」 全く正体はつかめないが、今夜はとりあえず、くたびれ儲けのようだ。 「どうしますか、やはり明日は何もしない方が?」 シィンの顔色を窺う。 成り行きで立てた計画だが、そもそもの目的は奪われたものの回収である。 慌てたジエナが身を乗り出す。 「待て待てまてっ、折角あいつと遊べる口実にこぎつけそうなのに、今突き放されたらもっと大変なことしでかしてやるっ」 「脅しか。いい度胸だ」 シィンに白い目で見られて、精神的打撃を負ったらしい。 ジエナは胸を押さえて机にうつ伏せる。
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