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禁書庫
―Ⅰ―
翌朝、カィンは、いつもなら予定もなく、無為に過ごす休日に変わった予定を入れ、どことなく浮ついた気分だった。
朝食を摂り、鍛練を済ませ、早めに王城へと向かう。
だが、よく考えたら王城での作法に疎い。
いつもの街路警邏の騎士服を着て、剣も持つが、王城内では帯剣禁止だった気がする。
受付に着くと、やはり剣は預けることになった。
「承っております、卿が来るまでしばらくお待ちください」
すらりとした美女騎士が、柔らかな口調で王城入ってすぐの広間を示す。
壁際にぽつんぽつんと椅子もあるが、座っている者はいない。
自由にそこここで立ち話をする騎士たち、官吏らしき者たちが10人前後いる。
カィンが、壁際に寄って広間の装飾を眺めていると、きちんと騎士服を着たシィンが中央階段から降りてきた。
広間の数人と軽い挨拶を交わし、片手を上げて会釈へ返しつつ、カィンの元にきた。
カィンは左手を太ももにつけ、右手の平を胸に当てて真っ直ぐな上体を前に倒し、おはようございます、と挨拶した。
シィンは軽く頷き、
「お早う、早速だが来てくれ」
と短く告げ、さっと歩き出した。
先ほど降りてきた中央階段を上がり、2階で廊下に出ると、途中の階段から3階に上がる。
2階の廊下にはちらほら人影があったが、3階に来るとぐっと少なくなる。
3階の廊下に出ると、シィンは足取りを緩め、カィンを振り返った。
「早めに来てくれて良かった。これから奥の院…主神殿に行くから王城を空ける。判らないことがあればジエナか、禁書庫の司書らに聞くといい」
シィンが歩きながら話すため、カィンは隣に並ばないよう、しかし話しやすいように、心持ち前へ出て、注意深く話を聞いた。
しばらく3階の廊下を歩くと、階段を示され、4階へ上がる。
4階の廊下には小間使いの女性が1人、盆を持って歩いているきりだった。
少しだけその廊下を歩くと、ひとつの部屋の前で立ち止まり、シィンは扉の前に控える騎士に取り次ぎを頼んだ。
すぐに部屋に通されると、ジエナが袖に腕を通しているところだった。
まるで…王子さま然としている。
ジエナは、シィンとカィンを見ると明るく笑いかけ、
「やあ、来たな」
と気軽く声を掛ける。
それを受けてシィンは、先ほどカィンがシィンに向けてしたように礼を示して、言った。
「カィン・ロルトを連れて参りました」
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