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ユラ-カグナとは旧知の仲であるルークは、彼の人の好さを知っているため、困ったような微妙な笑顔で答えた。
「でも彼、優秀でしょう?」
仕事を回すにしても、何も丸投げではないはずだ。
自分のところに来る雑事も、彼が宰相になってから、驚くほど減ったのだ。
アークがルークの大事な従妹だという事実からしても、彼が最善を尽くしていることは疑う余地がない。
「そっ、それはそうだけど…っ」
「ひと月ぶりとはいえ、この週末…二日間?外泊許すほど気を使ってくれてるんだから、アークも手を貸してやって?」
「うっ、はぁい…」
うなだれるアークの頭を撫でて、ルークはくすりと笑った。
従妹のこの素直さが、たまらなく愛しい。
「頼むね。ところで、まだ仕事あるんでしょう?どうしてここに?」
言いながら、ふと気付く。
政王であるアークが衛士しかいないこの神殿の中で、ひとりでいるなどありえない。
彩石騎士の誰かがいるはずだ。
探すと、すぐ後ろの垣根の影に、緑鉉騎士ファイナ・ウォリスが控えているのを見付ける。
瞳の色は緑で、茶色の長い髪を三つ編みにして流している彼は、大陸一の好戦的君主を持つことで知られる東隣国メノウ王国の出身だ。
目が合うと、軽く礼を示す仕草が洗練されていて、育ちのよさを物語る。
さらに視線を上げると、火の宮と風の宮を繋ぐ回廊の柱のひとつに、赤璋騎士、赤髪緑眼のアルペジオ・ルーペンがいて、広範囲の安全を探っている。
同時に視界に映るのは、長く真っ直ぐな黒髪をなびかせ、透明度の高い紅玉色の瞳に笑みを含みつつ、こちらに歩いて来る火の宮公、カヌン・ファラ。
その隣には、緑棠騎士、緑髪金瞳のスー・ローゼルスタインがいる。
「ちょっとした息抜きにファラに会いに来たのよっ」
言いながらアークが幼馴染みのファラを見返ると、彼女は微笑んで少し手を上げ、次いでルークとシィンを見て会釈した。
「息抜きって、ファラには負担じゃないの?」
親友同士の交流を邪魔したくはないが、四の宮公は、ルークが祭王として結界維持に専念できるよう、国務を分担している。
なかでもファラは謁見相手として、庶民の人気が特に高いため、その日課は多忙を極めているはずなのだ。
ルークの言葉が聞こえたらしく、アークの隣に立ったファラは、にっこり笑みを深めた。
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