ある捨て猫の物語

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ある日、もこなの左の耳に、小豆大の血腫が出来ていることに気付いた。 そのうち治るだろうと考えたのがまずかった。 それは日に日に大きくなり、ついには耳たぶ全体を覆う大きさになってしまった。 慌てて獣医に連れていくと、免疫性の疾患であることが判明した。 猫がよくなる病気だという。 しかし、それよりも背筋が寒くなったのは、あのまま放っておけば、耳たぶが腐ってとれてしまっただろう、と医者に言われたことだ。 "もこな、ごめん。もっと早く病院に連れてくるべきだった…😢" もこなは、即日入院、手術を受けることになった。 もこなを預けた帰りの車中で泣いた。 早期に発見しておきながら、軽く考えた自分を責めて泣いた。 翌日、迎えに行くと、医者が困り果てた様子で言った。 「治療させてくれないから、飼い主さんが来るの待ってたよ」 何事かと思いつつ、看護師さんの後につづいて、入院室へ向かった。 看護師さんがもこなのいるゲージに手をかけた瞬間 「シャー」 と、威嚇した。 それまで見たことも無い表情だった。 「もこなっ、もこなっ💦」 最初は私のことすら、判別出来ずに威嚇しようとした。 初めて、私の元を離れ、見知らぬ人と場所に緊張し、麻酔を打たれ、気付いたら耳には激痛が走り、もこなはパニックに陥っていたのだ。 目の縁を真っ赤にし、怯える姿に、涙がでそうだった。 「もこな、もこな…」 何度目かの呼びかけで、ようやくもこなの表情が変わった。 やっと私のことが認識出来たのだ。 手を差し伸べると、もこなはしがみついてきた。 「怖かったんだね、ごめんね」 何度も背中をなでて話しかけた。 診察室に戻ると、医者が待っていた。 「もう、威嚇がすごくて触らせてもらえなかったんだよ」 と言いながら、もこなのお尻に免疫抑制剤を注射した。 もこなは、家に帰るとお気に入りのソファーの背もたれに身を預けると、安心しきった顔で爆睡した。 しかし、これで終わりではなかった。 数ヵ月後、今度は右の耳にも再発したのだ。 医者いわく 「片方はよくあるけど、両方は珍しいんだよね」 結局、そちらも手術することになった。
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