ある捨て猫の物語

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さて、その年の夏、実家に帰省することにしたのはいいが、もこなをどうするか少し悩んだ。 神奈川から青森まで、決して短いとは言えない。 最初は飛行機の利用も考えたが、運賃4000円と聞いて断念。仕方なくJRを利用すると、なんと260円(当時)で帰れることが判明。 思わず代わって欲しいと思ってしまった。 横浜から電車を乗り継いで上野まで行く間に、真夏だったこともあり、もこなはキャリーバックの内部で茹で上がってしまった。 チャックの隙間から、腕を出し、かなり低めのダミ声で「ニャ~ゴ、ニャ~ゴ」とやるものだから、ホームにいた人が皆、振り返った。 うわぁ、勘弁してくれ~と思いながら、電車を待った。 電車内でも、その状況は続き、乗客が「あれ、猫の声がする」と話していたり、キョロキョロ探してみる人がいたり、かなり恥ずかしいことになった。 なんとか東北新幹線に乗り込んだわいいが、隣の客が弁当を広げていたために、もこなが迷惑をかけてはまずいと席を立ち、デッキで時間を潰すことにした。 もこなにリードをつけて、バックから出してやると、ヒンヤリとした床に長々と寝そべった。 そこへ、車掌さんが通りかかり、声をかけてくれた。 「どうしたの?」 「隣のお客さんがお食事中なので、ご迷惑かと思いまして」 すると車掌さんは、使っていない車掌室があるから、そこを使わせてくれると言ってくれたのだ。 有難い申し出に早速荷物を持って移動した。 荷物を取りに戻った際、隣の客が声をかけてきた。 「なかなか戻って来ないから、どうしたのかと思ってたよ。あれ、ニャンコは?」 気のいい酔っ払いおじさんだった(笑) 親切な車掌さんのおかげで盛岡まで、もこなは伸び伸びと過ごすことができた。 今でも、あの車掌さんの名前を記憶しなかったことが悔やまれる。 盛岡から、特急に乗り換えである。その頃になると、もこなの疲労もピークだったらしく、キャリーバックの中で眠り込んでいた。
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