ある捨て猫の物語

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もこなを引き取って、あっという間の一年が過ぎた。 その春は私が五年暮らした土地との別れの春でもあった。 荷物を整理する私の様子をすっかり成長し、貫禄のついたもこなが、興味深げに見つめていた。 旅立ちの日、すっかり小さくなってしまったキャリーバックにもこなを入れて、郷里へ。 お世話になった親戚の家を回りながら、上野駅へ。 以前のように騒ぐこともなく(というより、窮屈で動けなかったというのが本音だろうか💧)、新幹線に乗り込んだ。 今回は随行者がいることもあり、二列席だったから、もこなをバックから出してやることにした。もちろんリード付きで。 そして、いざ、カバンから出してやると、そそくさと前列シートの下にもぐりこんでしまった。 「キャー」 前列の客からあがった悲鳴に慌ててリードを引っ張り、もこなを連れ戻し、相手に頭を下げた。 出発早々にこれである💧先が思いやられた。 ところが道中はおとなしく、足元に寝そべって、手を焼かせることはなかった。 ただひとつ、困ったというか笑ってしまったのが、私が用事をたしに席を立ち、戻ってくると、必ず、もこながシートを占領し、丸まっていた。 あまりにも居心地が良さそうで、どけるのが可哀想なぐらいであったが、ずっと立ちっぱなしでいるわけにもいかず、下に降りて頂いた。その時の不満げな顔は今でも忘れられない。 そして、もこなは神奈川から、青森へ住み替えることになったのである。 もこなを生ゴミのように捨てた人には、想像もできないだろうと思う。
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