帰省

12/15
前へ
/98ページ
次へ
   「問題ないよ。この間車検に出した時に、故障箇所も見てもらったし」  休日しか乗ってないせいか、特に異常も見つからなかった。  「大事にしてくれているんだな」  タバコに火を点けながら、嬉しそうに爺ちゃんが笑ってくれる。  「そりゃね。爺ちゃんに買ってもらった車だもん」  一緒に車屋さんを回り、『中古車でいい』って言う僕を無視して、雪が降っても動けるようにと、4WDの新車を購入してくれたんだ。  「あの時は、雅春の意見も聞かんと勝手に決めてしまったからな、本当はイヤだったんやないかなと思ったんや」  「まさか。だったら直ぐに売りに出してるよ」  本当はそうするつもりだったけど、いざ乗ると愛着が沸いてしまって手放せなくなったんだよね。  「気に入ってくれているならいいんや」  ほっとしたように紫煙を吐き出し、お茶を一口すする。  それっきり会話は途切れる。  元々爺ちゃんは口数が多い方じゃないから、別に沈黙は苦痛じゃないんだけどね。  「僕もタバコ吸っていいかな?」  「吸うたらええ」  そう言って、爺ちゃんが自分のタバコを僕に寄越してくれる。  「ありがとう。でも自分のがあるからいいよ」  せっかくだけど、爺ちゃんが寄越してくれたタバコを押し返し、ポケットから自分のを取り出した。  「セブンスターか。キツイのを吸いよるな」  「そうかも……。でもこれしか吸えないんだよね」  色々試したけれど、この銘柄が一番しっくりくるんだ。      
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

209人が本棚に入れています
本棚に追加