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「そのタバコ、一本くれんか?」
じっと僕の手元を見つめていた爺ちゃんが、珍しく僕にモノをねだる。
「いいよ。だけど爺ちゃん、肺が悪いんじゃないの?」
部屋の隅に置かれていた酸素吸入器。
あれを使っているのは婆ちゃんではなく、爺ちゃんのものだと分かったのは、タバコを吸う姿が少し苦しそうだったから。
「一本ぐらいなら平気や。たまにはええやろ」
そう言われてしまうと、拒否なんて出来やしない。
僕は箱からタバコを一本引き抜き、爺ちゃんに差し出した。
「有難う」
僕が差し出したタバコを受け取り、大切そうに自分のタバコの箱に仕舞う。
「そういえば、今日って盆踊りがあるんだよね?健ちゃんに誘われたんだけど、行ってきていいかな?」
「そうやったな。行ってきたらええ」
「盆踊りがあるの?俺等も行きたい」
それを知らなかったのか、保と俊幸が会話に加わってきた。
「だったら、もう一泊したらどないや?帰るのが遅くなるからな」
「構いませんよ。盆踊りを見たら連れて帰りますので」
「父さん俺等、雅兄が帰る時に送ってもらうよ。いいでしょ雅兄?」
兄さんの話を蹴った保が、僕に同意を求めてくる。
確かに保や俊幸が住んでいる場所は、帰り道の方向だし、多少寄り道をしたからといって苦になるような距離でもない。
「僕はいいよ。せっかく会ったことだし、二人ともゆっくり話とかしたいしね」
「雅春君が構わないなら、僕から言う事はないよ」
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