帰省

13/15
前へ
/98ページ
次へ
   「そのタバコ、一本くれんか?」  じっと僕の手元を見つめていた爺ちゃんが、珍しく僕にモノをねだる。  「いいよ。だけど爺ちゃん、肺が悪いんじゃないの?」  部屋の隅に置かれていた酸素吸入器。  あれを使っているのは婆ちゃんではなく、爺ちゃんのものだと分かったのは、タバコを吸う姿が少し苦しそうだったから。  「一本ぐらいなら平気や。たまにはええやろ」  そう言われてしまうと、拒否なんて出来やしない。  僕は箱からタバコを一本引き抜き、爺ちゃんに差し出した。  「有難う」  僕が差し出したタバコを受け取り、大切そうに自分のタバコの箱に仕舞う。  「そういえば、今日って盆踊りがあるんだよね?健ちゃんに誘われたんだけど、行ってきていいかな?」  「そうやったな。行ってきたらええ」  「盆踊りがあるの?俺等も行きたい」  それを知らなかったのか、保と俊幸が会話に加わってきた。  「だったら、もう一泊したらどないや?帰るのが遅くなるからな」  「構いませんよ。盆踊りを見たら連れて帰りますので」  「父さん俺等、雅兄が帰る時に送ってもらうよ。いいでしょ雅兄?」  兄さんの話を蹴った保が、僕に同意を求めてくる。  確かに保や俊幸が住んでいる場所は、帰り道の方向だし、多少寄り道をしたからといって苦になるような距離でもない。  「僕はいいよ。せっかく会ったことだし、二人ともゆっくり話とかしたいしね」  「雅春君が構わないなら、僕から言う事はないよ」  
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

209人が本棚に入れています
本棚に追加