盆踊り

2/19
前へ
/98ページ
次へ
   「雅春、迎えに来たぞ」  玄関のドアが開き、健ちゃんの声が響き渡る。  「今行く。ほら、保も俊幸も行くよ」  テレビを見ていた二人の腕を掴み、半ば引きずるように玄関まで連れて行く。  「急で悪いんだけど、この二人も一緒にいいかな?」  「いいぜ。どうせ雅春が車出すんだろう?」  「そうだよ」  中学までバスはあるけれど、帰る頃には最終も終わっている。  それも考慮して、最初から車で行くつもりだった。  「ついでに俺もよろしくね。雅春のインプレッサ、一度乗りたかったんだ」  「そっちが目当てだったから、豪の言葉にのったわけね?」  可笑しいと思ったんだ。  待ち合わせ場所も時間も決めてたのに、健ちゃんに迎えを頼むだなんてさ。  「気づくのが遅いんだよ。雅春が車から降りて来るのが見えた時から、乗りたくて仕方なかったんだよ」  「分かったから乗りなよ。二人は後ろね」  まさか初めて助手席に乗せる奴が健ちゃんとは……。  ちょっと、否、かなり凹む。  「じゃあ行ってくるね」  まだキッチンにいる二人に声をかけ、僕は車へと向かった。  「やっぱり4WDはいいよな。しかもMT。俺もMTで免許取れば良かった」  「健ちゃんATなんだ。MTだったら運転変わってもらえたのに」  なんて言いながら、他の奴にステアリングを握らせる気なんてないんだけどね。  山の日暮れは、市街地に比べて早い。  まだ6時半だというのに、もう夕闇が迫り月が輝き始めていた。  
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

209人が本棚に入れています
本棚に追加