帰省

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   夏のうだるような暑さがコンクリートを照り返し、更に暑さを増す。  8月も10日を過ぎ、夕暮れと共に暑さは和らぎ幾らか涼しくなりつつある。  とはいえ、ほんの1℃か2℃程度だと思うけど。  外回りで疲れた足を引き摺るように、古びたアパートの階段を上る。  部屋の鍵を開けて室内に足を踏み入れれば、外と大して変わらない熱気が身体に纏わりつく。  その熱気を追い払うようにエアコンのスイッチを入れれば、モーター音と一緒に冷たい風が流れてくる。  たっぷりと汗を吸い込んだワイシャツを脱げば、まるで計ったように携帯が着信を知らせた。  「誰だよ。帰ってきたばっかりだって……」  いうのに。  その不満を最後まで言えなかったのは、ディスプレイに表示された名前を見てしまったから。  「……はい……」  震える指で通話ボタンを押せば、受話口から懐かしい声が聞こえてくる。  『雅春(まさはる)、元気にしてるか?』  最後に聞いた時と何一つ変わらない、爺ちゃんの元気な声。  その声を聞いただけで泣きそうになる。  「元気だよ。爺ちゃんも元気そうだね」  気を抜けば泣きそうになる自分を叱咤し、平常心を保つように努める。  『あっちこっちガタはきているが、それなりにはな。婆さんも元気だぞ』  「良かった。だけどいきなり電話してくるなんて、何か用があるんじゃないの?」  そんな近況報告の為だけに、この時期に電話をしてくるはずがないのだから。     
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