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小さな田舎だから、同じ名字の人が多くても仕方ないんだけどね。
「どうやら健が戻ってきたみたいやな」
達也の声に振り返れば、健ちゃんが真っ青な顔で戻って来る姿が照明に照らされていた。
「どないしたんや?」
その姿を見た一成が健ちゃんの側に駆け寄る。
「…………出た……」
その声は小さかったのに、盆踊りの騒音に掻き消されることなく、少し離れた僕達の耳にもはっきりと聞こえた。
「出たって、何がや?」
達也の怖いもの知らずは健在らしく、興味津々で問い返している。
「この時期に出るって言うたら、お化け以外に何があるんや」
精一杯の虚勢なのだろう。
気丈に振る舞っているけれど、語尾の震えだけはどうにもならないみたい。
「嘘やろ。去年は何もなかったやん」
「待てや。見間違いかも知れんし、後何人か行かせてから確認しようや」
健ちゃんの『お化け』発言のせいか、言い出した裕二が弱気になる。
それとは逆に達也の目は爛々とし、この状況を楽しんでいるようにも見えた。
「俺は達也の意見に賛成やで。健ちゃんのその状態を見たら嘘やないとは思うけど、まだ一人しか行ってへん状況やし、様子を見た方がええんとちゃうか?」
まさか、豪までがそう言うとは思ってもみなかったのだろう。
「分かったわ。ほな次の奴、行って」
諦めたように裕二が指示を出す。
「マジに一人で行くんか?誰か一緒に行こうや」
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