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裏庭を抜け、食堂の横を素通りし、光の届かない空き地へと足を向ける。
すぐ傍を流れる川のせせらぎと、太鼓の音。
そして清廉な空気が僕を包み込む。
その中には淀みなど微塵も感じない。
清廉な空気を身体一杯に吸い込み、神社へと続く小道を登る。
神社の境内には木が鬱蒼と繁り、グラウンドの照明を遮っている。
『……はる、……さ……は……る』
境内を横切り、学校へと続く道に出ようとした瞬間、誰かに名前を呼ばれた気がして僕は立ち止まった。
『ようやく見つけた。我が半身よ』
神々しい声と共に、今までに見たことのない美形が姿を現す。
「貴方は誰ですか?」
何故、僕の名前を知っているのか、という疑問はなかった。
ただ彼が何者なのかが、知りたかっただけなのかもしれないけれど……。
『さてな。朕(われ)に名は無い。人間は皆、朕を龍神様としか呼ばぬ』
それが寂しいのか、微かに眉が下がる。
「一つ伺ってもよろしいでしょうか?」
龍神だと言った言葉を疑ったわけではない。
今、僕自身を包む空気は、さっきまでと何も変わらないから。
『雅春は朕の半身。一つと言わず、全ての問いに答えよう』
「有難うございます。僕が貴方の半身とはどういう意味でしょうか?」
神様に知り合いなんていないし、僕がこの町に住んでいたのは、幼少期と中学の三年間だけ。
その期間を合わせても五年ぐらいしかない。
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