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『お盆休みなんだが、久しぶりに此方に帰って来ないか?』
いずれそんな電話がかかってくるような気はしていたけれど、あれから5年。
思ったより時間がかかったな。
っていうのが、僕の正直な気持ち。
会えばお互いギクシャクするのは間違いないのに、それを分かっていながら爺ちゃんは僕に帰ってこいと言ってるんだ。
このままだと、どちらかが歩み寄らない限り、ずっと平行線のままだと気付いたから、爺ちゃんは僕に電話をしてきたんだろうな。
「……帰るよ……」
爺ちゃんがさしのべてくれた手を、無下に振り払う真似なんて出来ない。
まして、爺ちゃん達が悪いわけじゃないのだから。
『婆さん、雅春が帰って来るってさ』
それを聞いた爺ちゃんが電話の向こうで、嬉しそうに婆ちゃんに報告している。
やがて受話器を引ったくるような雑音が聞こえた後、婆ちゃんの弾むような声が流れてきた。
『雅春、本当に帰ってくるんやね?いつ来るん?昼は此方で食べる?泊まっていくんやろ?』
僕が帰るのが待ち遠しいのか、質問という形を取ってはいるけど、言い換えれば『昼は此方で食べて、泊まっていけ』と言っているようなもの。
子供の時は鬱掏しいだけだったけど、今なら二人が淋しいのだと分かる。
「昼はそっちで食べるし、2、3日は泊まるつもりだよ。迷惑じゃなければね」
『迷惑やなんて……。此処は雅春の家なんやから、ゆっくりしていったらええんよ』
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