209人が本棚に入れています
本棚に追加
そして盆休み初日。
休日にしか乗らない愛車のステアリングを握り、一時間足らずの距離を走らせる。
後部シートには前日に買った手土産と、三日分の着替えを詰め込んだボストンバックが1つ。
市街地を抜け、国道を南下すれば稜線が広がる。
それを横目にひた走ること30分。
今度は長閑かな田園風景へと変わる。
川沿いの道へと出れば、後はほとんど一本道。
左を川、右を山に挟まれた県道をゆっくりとした速度で進む。
此処まで来れば、信号さえあまりないから混雑する事もないし、景色を楽しむゆとりも生まれる。
子供の時は、父親が運転する車の後部座席で、そして今は、自分が運転をして来ているけれど、この町の景色は何一つ変わっていない。
それだけ自然が多く残っている証拠なのだろうけれど……。
やがて左側に、僕が三年間通った中学校が見えてきた。
滅多に運転なんてしない僕は、休憩も兼ねて少し立ち寄ることにした。
車を邪魔にならない場所に停め、ドアを開ける。
それだけで市街地とは違う、涼やかな空気が僕を包んだ。
車から降りた僕は一度大きく伸びをして、身体の緊張を解す。
正門(といっても門はない)を抜けグラウンドを見れば、盆踊りでもあるのか、数人の男達が櫓を組んだり、提灯を飾りつけている。
「雅春?」
その中の一人が僕に気づき、慌てて駆け寄ってきた。
「やっぱりそうだった。久しぶりやな」
最初のコメントを投稿しよう!