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「名前、覚えてくれてるのね」
そう言って笑った小林さんは感じがよかった。
顎のあたりで切り揃った髪も清潔感があったし、何より目を見て話してくれた。
「学校には慣れた?」
「まぁまぁ、かな。でも平和な学校だね。」
「それこそ、まぁまぁってところね。やっぱり人が集まれば平和とはいかないわ。」
「大人なんだね。」
「佐々木くんこそ。カラマーゾフの兄弟か、なかなか興味深い選択ね。あたしはやっぱりミーシャが好きだけど。」
「読んだことあるんだ?」
「えぇ、彼に借りたの。」
そう言ってチラッと斎藤をみた。その目にはクラスメイト以上のものが浮かんでいて、僕の想像に拍車をかけた。
「さ、これでOKよ。期限は一週間。延長したい場合も一度返してからまた借りてね。」
「ありがとう」
「いえいえ」
その時予鈴が鳴った。鍵締めを小林さんに任せ斎藤と教室に帰る。
「小林さん、すごく素敵な人だね。」
試しにそう持ちかけてみた。いつも澄ましている斎藤の焦った顔が見てみたかったからだ。
だけど斎藤は満足げな顔で、「だろ?」と笑っただけだった。
「適わないな」と笑いながら教室に入った。
まさか教室内であんな事が起きているとも知らずに。
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