野良猫ロック

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というのも、奴は今一つ行動力に欠けていたからだ。俺ならばこうする、俺ならばああやってやる……って、そんな事ばかり考えていたんだ。あの小説を読んだ時に。 ある場合において、受け身であると自分に損な事が多いと俺は考える。 俺の名前か? そんなもの無いよ。別にあいつの真似してるわけじゃない。『吾が輩は猫である。まだ、名は無い』 違うね、俺にはこれからも名前なんて無いのさ。欲しいとも思わない。 何でって、決まった名前が無い限り、俺は誰にでもなれるからだ。だからいらない。 もし俺の名がミケだったら? ゴマだったら? ゲレゲレなんて洒落た名前だったら? 俺は死ぬまでミケでなければならないし、ゴマでなければならないし、ゲレゲレでなければならないかもしれない。 ……俺はごめんだね。全てにおいて自由であるべきなんだ。これが野良猫の生き方だ。 でも、名前が無いとなると、誰かと話す時に不便なんだ。『お前』だとか『あんた』だとか呼ばれるのは嫌いだし、俺はプライドが高いんだ。 そういうわけで、便宜上、『グレイ』と名乗る事にする。俺の毛の色は別に灰色ではないのだが、俺の存在は限り無く灰色なんだ。黒でもなければ白でもないという具合に。俺は語り部だからな。『グレー』よりも『グレイ』のほうが語感が良いと思ったんだ。 何かおかしいかい? まあ、他人と俺のセンスは全くもって違うからな。
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