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俺の住む街の濁った川の近くを散歩していると、野良猫仲間と出くわす。彼にも名前は無く、やはりここでは便宜上の名前を与えることにする。瞳の青い彼はブルー。
「よう」と彼が言う。
「よう」、俺も挨拶を返す。
「グレイ、トラさんが死んだ。トラックに轢かれたらしい」
「ああ、知ってるよ。トラさん高齢だったから、目もあまり見えてなかったからな。道路の真ん中を歩いていたんだろうな」
トラさん、というのは、高齢のトラ猫だった。彼は何でも知っていて、俺は色々な事を教えてもらったものだ。彼のしゃがれた鳴き声は、聞く者を落ち着かせた。
「トラさん、苦しまずに逝ったのかなあ」
「だと良いがな……」
前に一度、車に轢かれて死んでいた猫を見掛けた事がある。知らない猫だったが、目玉やら内臓やらが全部飛び出た彼を見た時は胸が痛んだものだ。そしてその後に、心無い人間の子供達がその猫の死体に石を投げたり木の枝でつついたりしているのを見た時には、腹の底から怒りの感情が芽生えた。俺の鋭利な爪で八つ裂きにしてやりたかったが、俺達猫は人間には勝てない。とにかく俺は悔しくて、悲しくて……野良猫にだって感情はあるんだ。
「トラさんの体、何処にあるんだろうな。オイラ、探してこようかな」とブルーが言う。
俺もそうしてやりたいが。
「やめときな。俺達野良猫は生きている時だって、死んでからだって、自由で孤独なんだ。俺達がトラさんを忘れなければ、それでいいじゃないか。死体なんてきっと見られたくないと思ってるさ」
俺達を気楽で呑気な生き物だと思っているかい?
確かにそうかもしれない。でも俺達だって、生きていくには様々な道を通って行くんだ。
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