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俺は自転車のカゴに、自分のと結香のカバンを詰め込むと、結香を後ろに乗せた。
青白く細い腕が後ろから絡みついてくる。結香の色っぽい吐息が首筋に触れる度に背中がぞくぞくして、胸がおかしいほどドキドキして、頭が変になりそうだ。
そういえば、二人乗りって初めてだな。 と、どうでもいいことを思いながら自転車を走らせる。
「……今日はいろいろと疲れたな…」
地獄坂を下りながらどうでもいいことをため息混じりに呟いた。
「大丈夫…まだ…始まったばかりだから」
結香は返すように呟いた。あの脱力感に慣れれば良いって事なのか…
──次の日。
いつものように、罵詈雑言を吐き叫ぶ目覚まし時計たちに叩き起こされた。
階段を降りていくと、由美姉ぇの「目覚めの掌打」に追い討ちされた。“目覚め”関係ないし、すでに目覚めてたし……と最悪の始まりだ。
今日の朝食はラーメンだった。
由美姉ぇ曰く、
『昨日スーパーで特売だったから買いだめしたので毎日食うわよ!』
ということらしい。
朝からラーメンで良いのか? とぼやきたいところだったが、由美姉ぇに悪口は言わないことにした。
由美姉ぇは泣き虫で恐がりだ。しかも、病的に…
どうやら、態度のデカさと心の強さは比例しないらしいな。女心と秋の空……違うか。
ちょっと責めるだけでぴーぴー泣く。すごく可哀想。とにかくそれだけは避けたい。
「朝からラーメンは姉さんには合わないと思うんだけど…」
「…何で?」
由美姉ぇは麺をすすりながら顔を上げた。あの…頬にナルト付いてますよ。
「ほら、ニキビとか栄養バランスとか血圧とかさ」
「…そうね」
由美姉ぇはラーメンを平らげると、静かに立ち上がる。ナルト…落ちろよ。
「じゃあ、戸締まりお願いね!」
由美姉ぇはカバンを抱えると、玄関を閉めた。頬にナルト付いたまま。…外から、姉の車のエンジン音が聞こえてきた。
「この様子だと、明日の朝もラーメンだな……」
にしても由美姉ぇ、ナルトに気付けよ。
水が張られた桶の中には黒塗りのどんぶりが沈んでいた。
俺は制服を着るとカバンを片手に玄関を飛び出した。
「……はにゃっ!!」
何かが、開いた玄関の扉に弾かれてブロック塀に激突した。
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