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両親は仕事の都合で海外を転々としているから、この家は今、俺と姉の二人暮らし。
今日は俺の入学式だ。
由美姉ぇも今日が入学式らしく、パンをくわえながら廊下を忙しそうに行き来している。
「俺は昨夜しっかり用意したから余裕さ」
パンをゆっくりと咀嚼しながら嫌味を含めて呟く。すると、由美姉ぇは足を止めて俺の目の前に腕時計を突き出した。
「……げっ…」
次の瞬間には、口にパンを限界まで頬張み制服を着る作業に移行した。
「んじゃっ! 戸締まり頼んだよ」
由美姉ぇは、手をヒラヒラさせると玄関を勢いよく閉めて、自動車を発進させた。
朝からドタバタしてるが、これで良いのか?
諸々の支度を終えると、玄関の鍵をしっかり閉めたのを確認して自転車に飛び乗った。
──俺が入学した高校。
小玉高校は、前まで通っていた中学校よりも敷地が一回りも二回りも大きくて、さらに制服がブレザーということで、高校なんだな……という印象を強く感じた。
そんなどうでもいいことを考えながら自転車を走らせる。
正門で面倒そうに交通整理をしている三年生の誘導に従うと、花見でも出来そうな程、桜が咲き乱れている桜並木の道に出た。
なんでも、この先にある自転車置き場に自転車をとめてから、体育館に集合するらしい…
桜並木の下では、先輩たちが部活名を明記したフリップボードを片手に騒がしく宣伝していた。
『俺達と青春の汗を流そうぜ! 茶道部』
その汗は蒸気によるモノなのか!? 青春じゃなくて蒸し暑いだけだろ!! と突っ込みを入れたくなる標語。
『僕らの村を清潔に。野球部』
『僕たちと一緒に遊ぼうゼ!! ゴルフ部』
……もはや、部活動とは名ばかりの完全自由活動組織だ。
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