平和部の温泉旅行

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   木枯は結羽の横顔を眺めながら小さく息づいた。 (知らない間におませになりやがって……このお子様が) 「結羽……」 「んっ、何っ? ……いッ!!」  木枯のデコピンが結羽の眉間から快音を響かせた。 「…酷い……痛いよ……」 「思えば、これも久しぶりだな」  木枯は結羽の眉間に当てた人差し指をすっと離した。 「僕はいつまでも子供じゃないんだから、デコピンはもう嫌だよ」  結羽は木枯のセカンドデコピン(左指)を両腕で退けると、木枯を見つめた。その強い瞳は涙に潤んでキラキラと輝いている。  木枯は結羽の頭に大きな手のひらを乗せると口を開いた。 「お前はいつまで経ってもガキだよ」  またデコピンの音が響いた。  * ──室内  ただ無言で抱き合っているだけなのに、急速に大きくなっていく結香の肩。 「……さて」  抱き付いてた結香は、身を離すと押入れに鋭い視線を向けた。  その刹那、押入れの周囲が何か見えない力で吹き飛んだ。その中心には知抄がうずくまっている。 「痛い…痛いよ…… 殺してあげる。貴女は必要ないから……殺してあげる」  知抄は前屈みになりながら、結香に強烈な殺意を飛ばす。対象が俺だったらすぐに戦意を喪失しかけていただろう。 「かかって…きなさい……」  殺意剥き出しの知抄に、結香はあくまで冷静に挑発を仕掛けた。 「アアアァァァ!!」  知抄の叫び声はたちまちカマイタチに変わると、結香に襲いかかる。  
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