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「嘆き多き小さき波動よ…… 時を引き裂け緩き木漏れ陽」
結香の口から出た詞は細波のように空気をうねらせると、目の前のかまいたちを捻り消した。
「神は命ず鏡の歌よ…… 流れる紅葉に火を灯せ」
結香は知抄に人差し指を向けると、指先に集まった光の球体を光速で撃ち放った。
「なんてことを……」
「…大丈夫…あれ自体は…ただの光だから」
……そういえば、この詞は?
「この詞って、まさか『月読唄』なのか?」
-月読唄(つくよみうた)-
この村に伝わる最古の童歌(わらべうた)。現在でも、一部地域では唄い継がれているらしいが……
歌い手 不明
「…はわ…わわ…ぁ…」
強烈な発光体が駆け抜けた壁には、戦意を喪失した知抄がもたれかかっていた。
「大丈夫か?」
大丈夫じゃないことは百も承知だか、確認を兼ねて声を掛けてみた。
「……降参……です」
気が抜けたように、ろれつが回っていない知抄。それから、
「あの……私に腕を差し伸べて…」
知抄は途切れ途切れにそんな内容の台詞を漏らした。
「…さいが君…危険な事は…させないよ…」
肩で息をする知抄。両腕を広げて遮る結香。てか、なんで俺の腕!?
「ごめんな……やっぱり、人が目の前で苦しんでいるのを見て、無視はできない」
暫時俺を見つめていた結香だったが刹那、事を察したのか、ゆっくりと両腕を下ろした。
「私こそ…さいが君の答え…わかっていた…はずなのに…」
怒ってもいないのに、結香は勝手にしょぼくれた。本当にしょうがないやつだ……
俺は知抄に手を差し伸べて立たせると、うずくまってる結香の頭に手のひらを乗せて呟いた。
「すまんな 結香……」
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