平和部の温泉旅行

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  ──鹿威しが暗い闇夜に余韻の残る独特の音を響かせる。白銀の月を黒い雲が覆って、視界の先の樹々に影が落ちた。 「てかさ……これは何?」  長い年月を感じさせる大きな机に、正座で向き合う結香と知抄。  腕をかざしただけですっかり元気になった知抄は、強気にも自分をボコボコ(?)にした相手に殺意を含んだ視線をぶつけている。  それに対して、結香はいつもの冷静な表情だ。 ……てかさ、魔法まがいの技を使用した戦いの後には見えない。むしろ、あれは魔法ではないのか? 「貴方はもう、さいが君に近付かないと誓いますか?」 「…それは……」 ……赤の他人のくせにそこ悩むなよ。 「しつこいのね。…誓う?」  てか、結香さん。貴女は俺を独占したいのか!? …と、そこでちょうど部屋の扉が荒々しく開かれた。 「天草さん…この子は誰です?」  背後からすごい殺気がゴゴゴ……って聞こえる。 「この子は、急に部屋に入ってきて…『失望したわ…貴方は、結香さんみたいな幼女だけでは飽き足りず、ついには旅館の客の女の子にまで襲いかかったのね…』  先輩の瞳から涙の粒が落ちた。てか、先輩…何気に酷いこと口走ってますよ。  俺は盛りのついた雄犬じゃないんですがね…… 「このっ……幼女大好き変態野郎!ロリコン!ペドフィリア(幼児対象性欲者)!!」 「ひどっ……」  俺を睨み付けた先輩の瞳には涙が浮かんでいた。 「お、俺は決して変態では無い!! まぁ……ロリコンは認めるが」  結香の表情がパァと明るくなった。それと同時に、木枯先生のイタイ視線を感じた。いいえ……むしろ、イタイのは貴方です。 「そう……」  時間が止まったように俺を見つめていた先輩だったが、何かを悟ったように無機質な言葉を吐くと、押入れに閉じこもった。  押入れに閉じこもるのは、未来製の青いタヌキだけで充分です。  
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