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気まずい……。てか、なんですか? 俺が謝らなくてはいけないムード。あれだけ悪口吐きかけられて……
……しかし、結局は俺が挫けなくてはいけないのだ。
「ごめんなさい」
春中旬(はる・ちゅうじゅん)の旅館の一室に凍てつく風が吹き込んだ。気がした……
罪滅ぼしか。暫く続いた沈黙を先輩は打ち破っくれた。
「冗談は置いといて、よく見たら貴女……木霊ね」
……演技だったのかよっ!!
(木霊・樹に宿るとされる精霊。自然霊の一種。 昔、山びこは木霊がおこしたものだと考えられていた [wiki 参照])
知抄は小さく頷いた。否定しろよ……
「なら…そうね……。平和部に入りなさいっ!!」
先輩は決め台詞のように吐き捨てると、指を鋭く差し向けた。
知抄の反応は……?
「…は…はぃ……」
知抄は戸惑いながらうつ向くと、声を絞り出すように呟いた。
「よろしい。じゃあよろしくね♪」
先輩のテンションには、何人(なんぴと)たりとも敵わないらしい。
先輩に頭を撫でられている知抄の表情は、何処か不服そうだった。
いや……そもそも、高校の部活にこんな小さな子が入れるのか!?
*
月の光が中庭の錦鯉のまばらな模様を妖艶に浮き上がらせる。
俺は旅館のオプションとして置かれている試食用の栗饅頭を口に押し込むと、これまたオプションの緑茶でそれを流し込む。
饅頭の甘みが、から渋い苦味によって中和される味が、俺の旅の定番になっている。
窓際の椅子に腰かけた俺は、暇潰しにオプションのクロスワードを始めた。
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