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『疲れた』
あぁ……原稿用紙一行で終わってしまった……
俺は結香と共に行ったお土産屋で饅頭なんかを眺めながら楽しんでいたが、格別面白そうなモノや、特に興味をそそられるモノも無かったので、渋々部屋に帰ることにした。
もうひとつの理由としては、結香が人の目線にお構い無しにベタベタしてくるからなのだが。
──そそくさと部屋に逃げ込んだ俺は、読書を楽しんでる木枯先生の姿を見てホッと一息ついた。
机の上に補給されていた饅頭の一つを摘まむと、フィルムをパリパリと剥がしていく。湯飲みに粉末緑茶を入れると、オプションのポットの湯を注ぐ。
湯飲みから立ち上る湯気を眺めながら、うっとりしていた俺は……
……背後で仁王立ちしている先輩に気付かなかった。そして、先輩の影からひょっこり顔を覗かせている結香に。結香の後ろから目を光らせている木枯先生に。
そして、部屋の隅の押し入れの中から覗き込んでいる知抄の存在に気が付かなかった。
その光景が、いかに冷戦に酷似していたのかは言うまでもない。
「今日の夜景はさぞかし綺麗だろうな……」
俺は、まだ飲むには熱すぎる緑茶をすすると、孤独な雲にぼやいた。
もちろん、お口の中は「アチチ」でしたがね。
しかし、俺の記憶から少しでも彼らを忘却させるのに犠牲は付き物なんですよ……
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